退職前、私はどこかで「仕事を辞めたら、もっと自由で楽しい毎日が待っている」と思っていました。
朝は好きな時間に起きる。
満員電車に乗らなくていい。
嫌な会議もない。
上司への報告もない。
平日に旅行へ行ける。
読みたかった本も読める。
好きなだけ散歩もできる。
こう並べてみると、たしかに理想的な生活に見えます。
もし住宅ローンもなく、生活費の心配も少なく、退職金や年金の見通しも立っているなら、なおさらです。
「悠々自適に暮らせばいいではないか」と思うのは自然なことだと思います。
実際、退職直後の数週間は、かなり解放感がありました。
平日の昼間に街を歩いているだけで、少し得をしたような気分になります。
会社員時代には行けなかった時間帯に映画を見たり、空いている店で昼食をとったりする。
それだけでも、最初は新鮮でした。
しかし、しばらくすると、その新鮮さは薄れていきます。
毎日が休日になると、休日のありがたみが減っていくのです。
会社員時代の休日がうれしかったのは、平日に仕事があったからかもしれません。
忙しい日々があり、その合間にある休みだからこそ、休息には価値がありました。
ところが、毎日が休みになると、休みは休みでなくなります。
これは贅沢な悩みだと言われれば、その通りです。
けれど、当事者にとっては案外切実です。
趣味がある人は大丈夫だと思うかもしれません。
ゴルフ、釣り、読書、映画、旅行、園芸、料理。
どれも素晴らしい趣味です。
ただ、その趣味を10年、15年、毎日の生活の中心に置き続けられるか。
そこは一度、考えてみてもよいのではないでしょうか。
趣味は、仕事や義務の合間にあるから輝く面があります。
それが生活の主役になったとき、同じ熱量を保てるかどうかは、人によって分かれると思います。
もちろん、趣味を本当に深められる人もいます。
退職後に絵を始めて展覧会に出す人もいれば、楽器を始めて仲間を作る人もいます。
そういう生き方は、とてもよいと思います。
ただ、私の場合は、そう簡単ではありませんでした。
時間はある。
お金も、当面の生活には大きな不安がない。
行きたいところへ行ける。
やりたいこともできる。
それなのに、どこか満たされない。
この感覚は、自分でも最初はよく分かりませんでした。
会社員時代には、自由が欲しいと思っていた。
ところが、いざ自由になってみると、今度は何かに縛られていた頃のほうが、自分の輪郭がはっきりしていたように感じる。
人間は不思議なものです。
忙しいときには、自由を求めます。
自由になりすぎると、今度は役割を求めます。
退職後の「悠々自適」が思ったほど幸せではない理由は、ここにあるのかもしれません。
人はただ時間があるだけでは、なかなか満たされないのです。
自分には今日やることがある。
誰かと会う予定がある。
小さくても役割がある。
自分の行動が、誰かや何かにつながっている。
そうした感覚が、思っている以上に大切なのではないでしょうか。
私自身、退職後しばらくしてから、ようやくそのことに気づき始めました。
自由だけでは足りない。
必要なのは、自由な時間の中に、自分なりの意味を置いていくことなのだと。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
次回は、私が退職後に始めたひとり旅と、その先で感じた虚無感について書いてみます。
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