旅に少し疲れた頃、私は資格取得の講座に通うことにしました。
理由を聞かれれば、表向きにはこう答えていたと思います。
「新しい分野を学んでみたかったから」
「将来の可能性を広げたかったから」
「退職後のキャリアを考えるため」
どれも嘘ではありません。
しかし今振り返ると、もう少し正直な理由がありました。
私は、どこかに通いたかったのです。
決まった曜日に、決まった場所へ行き、同じ目的を持った人たちと顔を合わせる。
そういう生活のリズムが欲しかったのだと思います。
私は退職後の数年間で、いくつかの資格講座に通いました。
主催する団体もそれぞれ違いました。
企業系のもの、予備校系のもの、協会系のもの。
集まってくる人たちの年齢や背景も、かなり幅広かったように思います。
そこで興味深かったのは、定年退職前後の人が想像以上に多かったことです。
もちろん若い人もいました。
特に30代くらいの女性は比較的多く、皆さん真剣に自分のキャリアを考えているように見えました。
一方で、50代後半から60代の男性も、かなりの割合でいました。
私はもともと、人がなぜそこに来ているのかに興味を持つほうです。
少し親しくなると、差し支えない範囲で、なぜこの講座を受けているのか尋ねてみました。
返ってくる答えは、多くの場合、似ていました。
「自分のキャリアのためです」
「自分磨きです」
「今後の可能性を広げたくて」
「資格があれば何かに役立つと思って」
どれも立派な答えです。
社会人があらためて学び直す理由として、模範解答と言ってよいかもしれません。
ただ、しばらく一緒に過ごしていると、少し違うものも見えてきます。
本当にその資格を使って仕事をしたいと強く思っている人は、実はそれほど多くなかったように感じました。
もちろん、明確な目標を持っている人もいました。
資格取得後の開業や転職を見据えて、真剣に勉強している人もいました。
しかし一方で、講座に通うことそのものを楽しんでいる人も多かったのです。
毎週、同じ教室に集まる。
休み時間に話す。
授業後に食事へ行く。
飲み会をする。
試験勉強の話をしながらも、だんだん人生相談のような話になる。
この時間が、皆にとってかなり大きな意味を持っていたのではないかと思います。
私もその一人でした。
講座に通っている間は、自分に予定があります。
学ぶことがあります。
会う人がいます。
名前を呼ばれます。
何かを質問されます。
時には、自分の経験が誰かの役に立つこともあります。
それだけで、退職後の空白感は少しやわらぎました。
人は、ただ知識を得るためだけに学びの場へ行くのではないのかもしれません。
特に退職後の人間にとって、講座は学習の場であると同時に、居場所でもあります。
会社員時代には、職場が半ば強制的に居場所を提供してくれていました。
好むと好まざるとにかかわらず、そこへ行けば自分の席があり、自分の役割がありました。
退職後は、それがなくなります。
だからこそ、学び直しの場が、新しい居場所の候補になるのだと思います。
もちろん、資格講座に通えばすべて解決するわけではありません。
費用もかかりますし、資格によっては実用性に差もあります。
講座選びを間違えると、思ったような学びにならないこともあります。
それでも、退職後に家にこもりがちになっている人にとって、何かを学ぶ場所へ出かけることは、一つのきっかけになるのではないでしょうか。
資格を取るためだけではなく、人と会うために学ぶ。
予定を作るために学ぶ。
自分がまだ変われると感じるために学ぶ。
そう考えると、資格講座の意味は、少し違って見えてきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
次回は、資格講座で見えてきた「本音と建前」について、もう少し書いてみます。
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