第6話 資格よりも“居場所”が欲しかったのかもしれない

資格講座に通っていて、だんだん分かってきたことがあります。

それは、私を含め、多くの人が本当に欲しかったものは、資格そのものだけではなかったのではないか、ということです。

もちろん、資格取得を真剣に目指している人もいます。
試験に合格し、その資格を使って転職したい。
独立したい。
副業につなげたい。
そういう明確な目的を持っている人は、話していても熱量が違います。

一方で、定年退職前後の男性たちの中には、少し違う雰囲気の人もいました。

勉強はしている。
授業にもきちんと出る。
しかし、資格取得後に何をするのかを聞くと、少し言葉が濁る。

「まあ、取っておいて損はないかな」
「何かに使えるかもしれないし」
「今すぐ仕事にするかは分からないけど」

私自身も、まさにそのような感じでした。

正直に言えば、最初からその資格で仕事をする強い覚悟があったわけではありません。
興味が続けば試験を受ける。
面白ければ資格を取る。
その先のことは、取ってから考える。
そんな気持ちでした。

けれど、講座に通うこと自体は楽しかったのです。

毎週、教室へ行く。
同じ顔ぶれに会う。
授業の前後に雑談をする。
分からないところを教え合う。
たまには飲みに行く。

驚いたのは、飲み会や食事会の出席率の高さでした。
授業よりもこちらに力が入っているのではないかと思うほど、皆さんよく集まります。
もちろん私も参加していましたので、人のことは言えません。

そこには、会社員時代とは違う気楽さがありました。
肩書きで呼ばれることもありません。
元の会社での上下関係もありません。
それぞれが、ただの受講生として集まっている。

この「ただの受講生」という立場が、退職後の人間には案外心地よいのです。

会社では、どうしても役職や実績がつきまといます。
退職後も、元の肩書きを引きずってしまう人は少なくありません。
しかし講座では、全員が同じスタートラインに立ちます。
年齢や経歴の違いはあっても、同じテキストを開き、同じ課題に向き合う。

それが、新しい関係を作るきっかけになります。

興味深かったのは、30代くらいの女性たちとの会話でした。
彼女たちは、現実的に自分のキャリアに悩んでいる人が多かったように思います。
今の仕事を続けてよいのか。
結婚や出産との関係をどう考えるのか。
職場での評価に納得できない。
これから何を軸に働けばよいのか。

そうした話を聞くと、50代、60代の男性たちは、自分の経験をもとに、いろいろと話したくなります。
もちろん、語りすぎは禁物です。
昔話や武勇伝になってしまうと、相手にとっては迷惑でしょう。

それでも、相手が本当に相談してくれたとき、自分の経験が少し役に立つことがあります。
そのとき、こちらもまた救われるのです。

誰かにアドバイスをする。
自分の経験を聞いてもらう。
それによって、まだ自分にも役割があると感じられる。

これは、退職後の男性にとって、かなり大きなことではないでしょうか。

心理学やキャリアの考え方では、人が年齢を重ねる過程で、次の世代に何かを渡していくことが大切だとされることがあります。
専門用語を使わなくても、感覚としては分かります。
若い人に自分の経験を少し役立ててもらう。
それは、自分の人生を肯定することにもつながります。

資格講座で起きていたことは、単なる勉強ではありませんでした。

学び直し。
人とのつながり。
居場所。
小さな役割。
そして、まだ自分が誰かの役に立てるという感覚。

それらが混ざり合っていたのだと思います。

資格そのものが無意味だとは思いません。
しかし、退職後の学び直しにおいては、資格取得という結果だけでなく、その過程で得られる人間関係や居場所にも目を向けてよいのではないでしょうか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
次回は、資格を取るなら考えておきたい「名称独占」と「業務独占」の違いについて書いてみます。

ーーーー

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です